うつ病の心理社会的発症要因
地域住民中に高い頻度で見られる精神疾患はうつ病です。
ではうつ病はどのようにして発生するのでしょう。双生児のうつ病一致率研究(行動遺伝学)から、うつ病の発症の50%以上は環境要因であることが推定されています。そこで、どのような環境要因がうつ病を惹起しているかを研究主題として扱ってきました。
大きく分けると (1) ライフイベンツ[いわゆるストレス要因](2) 性格傾向 (3) 社会的支援[友人・同僚など](4) 対処行動から、うつ病発生のメカニズムを説明してきました。
遺伝ではない発症要因を見出すことは直ちに治療・予防に応用できるでしょう。その中でもパーソナリティ要因の研究は私の重要研究課題です。
最近、われわれはTCI のプロフィールが抑うつと不安で異なることを報告しました。
また、抑うつ感情に先立って自動思考や認知のゆがみが存在するという Beck の理論が正しいことを実証しました。さらに、うつ病を起す基礎に情緒優先的対処行動があることを見出し、加えてこの背後に自己効力感の低さがあることを実証的に報告しました。
これまでのパーソナリティ研究は西欧のそれを単純に輸入してきたものであるという反省に立って、新しく日本文化に特有の対人関係スキルが抑うつに関連することを予報的に報告しました。
周産期うつ病については全国多施設共同研究において発症危険要因を同定し、若い年齢や望まない妊娠が妊娠うつ病のそれであり、不良な住環境や感情的いやがらせを受けたことが産後うつ病のそれであり、さらに妊娠うつ病が産後うつ病の危険要因であることも見出しました。
また、名古屋市立大学との共同研究では、夫婦間の関係性の尺度を開発し、習慣性流産がパーソナリティ、ソーシャル・サポート、対処行動、前回流産後の抑うつと関連していることを報告しました。
死別後にうつ病と病的悲哀反応が並存することは多いです。こうした comorbid な状況でも、ruminative coping がうつ病の発症にのみ関連していること、さらに病的悲哀には怒りの感情が重要な意味を持っていることを見出しました。
病的死別の症状論とあわせ、この領域の病態生理に関する研究は今後の重要課題であります。
主たる業績一覧